さて、今回は前回の予告通り、戦争映画よりご紹介です。
- 公開:2002年
- 監督:ジョン・ウー
- 主演:ニコラス・ケイジ
- あらすじ:1944年、太平洋戦争におけるサイパン島制圧作戦に焦点を当て、コード・トーカー(暗号通信兵)として派兵されたナバホ族の隊員と作戦をともにするアメリカ兵を描いた。
- 3700万ドルの損害を出し、興業的には失敗したといわれている。
興業的にはあまり振るわなかった本作”Wind Talkers(ウィンドトーカーズ)”も、服装や装備など随所にこだわりが感じられます。
この映画で描かれている第二次世界大戦とナバホ族の関係については、非常に興味深いものがあります。
画像出典元:コードトーカー-Wikipedia
画像は、太平洋戦争において”暗号通信兵”として参加したナバホ族の写真です。
アメリカ合衆国において、ほとんどの米先住民族に米国籍が与えられた時代に迎えた太平洋戦争において、
通信傍受により、こちらの作戦や動向が日本軍に筒抜けになることを恐れた米国は、
彼らの言語であるナバホ語を通信の仲介言語にすることで、それを防ぐことに成功しました。
具体的には、
前線において兵士は英語で伝達事項をナバホに伝え、ナバホは伝達事項をナバホ語に翻訳して司令部などに通知、
受信側においてナバホが再度英語に翻訳しなおして伝達する、という流れです。
ナバホ語の動詞は、主語の格変化による活用だけではなく、目的語の性質によっても、それぞれ非常に複雑に語尾が変化する。また発音も、白人にとっては奇妙なものであり、上に述べたコードトーカーの通信文を録音したテープを聞かされた海軍情報部の兵士たちは「軟口蓋音や、鼻音や、舌のもつれるような音が続く奇妙な言葉で(中略)解読するどころか書き取ることさえできない」と語ったという
引用元:サイモン・シン著『暗号解読』 新潮社
西部開拓の歴史を持つアメリカ合衆国ならではの情報作戦とでも言えましょう。
西部開拓自体は、アメリカのフロンティアスピリッツを生み出した美談のように語られることも多いですが、その実ロング・ウォーク1)別名:ボスク・レドンドへの長旅。1864年にエイブラハム・リンカーン大統領によって実施されたインディアンの民族浄化策。ナバホ族の居住地から強制的に収容所へ20日間も徒歩で移動させ、収容所へ移住させた。やアパッチ族との争い、虐殺、人種差別など、決して褒められた歴史とは言い難い面もありますが・・・
こうした開拓時代のアメリカの言及については、また別の映画で取り上げたいと思います。
本稿では、このようにして太平洋戦争に参加したナバホ族と、当時のアメリカ兵の着こなし、服装について読み解いてまいります。
contents
日本人へも馴染み深い、ナバホのインディアンジュエリー
ファッション好きな方であれば昨今のインディアンジュエリーブームはもちろんご存知のことでしょう。
この映画では、アメリカ軍に暗号通信兵tとして参戦したナバホ族に焦点を当てて描かれています。
そのため、作中では、彼らの生活や服装、文化などに対して、ある種敬意を払うかのように描写するシーンが数多く登場します。
そうしたシーンの中に、ナバホの服装を象徴する箇所がいくつかございます。
ターコイズは空の石
冒頭のシーンで、ナバホの青年が戦争に参加するために旅立つ場面。
一族の長老たちの首元には、大ぶりのターコイズで作られたネックレスが下げられています。
「地球をとりまく美しい空」
「天上の神々の力が地上に落ちてきて結晶化したもの」
などと言われるように、ターコイズには神聖な力があるとして、古くから聖なる石としてあがめられ、雨乞いの儀式などにも使われてきました。
産出量も決して多くないため、日本でも良質のターコイズを用いたアクセサリーはとても人気で高価な装飾品となっています。
それをこれだけ贅沢にネックレスにするのですから、先住民たちのターコイズに対する神聖視はやはり強かったのだといえるでしょう。
画像右の老人が纏っている大きめのショールカラー2)首元を肩側に丸く覆うような曲線が特徴の襟の形風ラペルのコートも非常に渋いですね。
ナバホの正装は鉢巻
こちらは終盤のシーンになります。
ナバホの通信兵として参戦した青年が故郷に帰り、戦争における仲間の死を弔う簡易な儀式を執り行う場面ですね。
ナバホ族においては、正装として鉢巻をする文化があります。
このシーンにおいても、空の石”ターコイズ”のネックレスを身に着けていますね。
ちなみに、女性もナバホの正装であるベルベットのロングドレスを纏っています。
仲間の弔いのシーンにおいても、ナバホの伝統をしっかりと踏襲した演出がされているあたり、さすがです。
インディアンジュエリーといえば、シルバーバングル
さて、昨今のネオ・アメリカンスタイルや何度目かのシルバーアクセサリーのブームの渦中においてひと際注目を浴びているのが、インディアンジュエリー、そしてシルバーバングル、ですね。
神聖な金属であるシルバーに、部族ごとの意味や儀式に必要なモチーフを彫るなどして、神聖なアクセサリーとして作られるインディアンジュエリー、アメリカではこうした先住民族が作ったものだけがインディアンジュエリーと呼ばれます。その他の真似事で作られたものはインディアンジュエリーを名乗ることが出来ないんですね。
最も、日本ではそういった法律の制約はありませんが、日本のブランドが現地の先住民アーティストとコラボするなどして、”本物”を作ることも増えてきました。
日本でもなじみ深いインディアンジュエリーといえば
goro’s
hobo
などがございます。
特に最上段のgoro’sに関しては、2013年に数多くの人に惜しまれながら他界された高橋吾郎氏が1972年に立ち上げられた日本を代表するジュエリーブランドです。
著名人のファンも多く、オールハンドメイドで作られていたgoro’sのアクセサリーはその人気のあまり連日長蛇の列が出来たり、オークションで高値で取引されていたりと、話題には事欠きません。
ただこのgoro’s、何がすごいって、創業者の高橋吾郎氏が、日本人で唯一の”インディアン”ということなんです。
青年時代にアメリカへ渡り、アメリカ中西部の北方に居住するスー族に認められ、イエロー・イーグルというインディアンネームを授けられました。
入族(?)の儀式はそれはもう過酷なもので、
密閉されたテントの中で焼け石に水をかけ、とてつもない蒸気と熱気の中で行われる苦行や、鷹の爪(もちろん唐辛子ではないです)を胸の肉に突き刺し、踊り続ける儀式などが必要とされるようです。
そのようにして一族と認められ、帰国した高橋吾郎氏の作る、インディアンジュエリー、確かに高価ではありますが、お金で買えるなんて安いものだとすら思えますね、個人的には。
ましてやお店に並ばず、オークションで買えてしまうなんて、便利になった世の中とはいえ、なかなか理解しがたい、簡単に手に入ってしまうからこそ、希薄化してしまう文化もあるのではないかなと、ちょっと個人的には寂しい気持ちすら感じてしまいます。
少々トゲのある書き方をしてしまいましたが、goro’sのアイテムそのものは良質この上ありません。
インディアンの文化や、細かな装飾など高橋吾郎氏のこだわりが凝縮されたgoro’sにご興味を抱かれた方は、こちらをご覧になってみてもいいかもしれません。
まさか”Wind Talkers”の記事でgoro’sにまで触れるとは自分でも思っておりませんでしたが、インディアンジュエリーがこのような形で今の日本でも評価されているというのは非常に興味深いですね。
歴史を辿ると遺伝子的には近しい同じモンゴロイド系の民族ということもあり、太平洋戦争において日本人兵と対峙したインディアンは、アメリカの白人よりも親近感を覚え、攻撃に躊躇したと語ったとまで言われています。
時を超えた今だからこそ、彼らの文化に敬意を払えるし、アクセサリーを自由に身に着けられる。
平和っていいですね。
ではまた。
References
1. | ↑ | 別名:ボスク・レドンドへの長旅。1864年にエイブラハム・リンカーン大統領によって実施されたインディアンの民族浄化策。ナバホ族の居住地から強制的に収容所へ20日間も徒歩で移動させ、収容所へ移住させた。 |
2. | ↑ | 首元を肩側に丸く覆うような曲線が特徴の襟の形 |